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誰のための「日本研究」か――NDL東京シンポから

※以下****までNDLウェブサイトからの引用

2014年1月30日(木曜)14:00-17:30 国立国会図書館東京本館

http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/knssympo.html

プログラム
  • 基調講演:「海外の日本研究と日本の図書館の役割 -北米,及び東南アジアの事例から」
    • 和田敦彦氏(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
  • パネルディスカッション:「海外の日本研究のために日本の図書館は何ができるのか」
    • パネリスト:
      • ウィリー・ヴァンデワラ氏(ルーヴェン・カトリック大学教授,日本資料専門家欧州協会(EAJRS)臨時代理会長)
      • 江上敏哲氏(国際日本文化研究センター資料課資料利用係長)
      • 篠崎まゆみ氏(オーストラリア国立図書館 資料管理部 海外資料課 アジア資料担当日本語主任司書,JALRGAメンバー)
      • ジョ・ヘリン氏(韓国国立中央図書館 デジタル情報利用課 企画・運営担当主務官)
      • マクヴェイ山田久仁子氏(ハーバード燕京図書館司書,北米日本研究資料調整協議会(NCC)議長,東亜図書館協会(CEAL)メンバー)
      • 和田敦彦氏
    • コーディネータ:
      • 南亮一(国立国会図書館関西館図書館協力課長)

****

時の政権が打ち出す「クール・ジャパン」戦略の一環か,国の文教関係の機関ではここ数年,日本研究支援と銘打った催しが増えています。日本の文化交流を民間レベルで支えてきた国際文化会館や,国際交流基金との連携も増えています。今回のシンポジウムは,その中間まとめといったところ。関西館とのサテライト機能を持つ小ぶりな会議室は業界関係者で満席(私は素人)。

最も会場が湧いた質疑。

Subject Librarian からDigital Librarianへの移行が求められるなかで,分野としての日本研究(地域研究)の水準をどう高めていくか?

問いの前提によく分からない面がありましたが,「研究主題・分野に比べてデジタル化という方法的潮流が重要度を増している状況下で」という意味に解しました。これに対し「〔資料保存を旨とする〕図書館の立場から水準そのものの向上はできない(マグウェイ山田氏)」との留保があったうえで,

「近年は一国研究でなく比較研究が主流」

「Area StudiesがDisciplinary Studiesに対して孤立化する状況を食い止めないといけない,異なるdiscipline同士の対話を深めなければ」

などといったパネリストらの反応が印象的でした。

ある面で人文知の水準は資料の質量両面での充実度がカギを握ってきたと言われます。アクセシビリティが高く,場合によってそれを占有する者は研究で独占的優位にたつことができました。デジタル化の進展で土地を越えた資料の共有が進むと,方法が平準化され,scienceに近づく新たな人文知の可能性が見て取れます。他方,このシンポジウムなされた議論はデジタル人文学の潮流のもと,改めてローカリティが意味を持ちうることを示唆しています。

逆説的ですが,地域研究をその地域特殊論で防衛するのは簡単ですが,説得力はありません。「日本は特殊だから」といった言辞はトートロジー(同義反復)にすぎないからです。またある国のことを深くマニアックに知っても,知識の追求が自己目的化してしまうばかりです。そこで比較研究がポピュラリティを獲得してゆくのは望ましい流れだと思います。

他方で,もう一つ地道な取り組みとして,日本研究の現状を草の根でまとめ,集合知として蓄積していく必要があるでしょう。その代表であるwiki形式を用いたこれは,既に刊行された冊子体の本を(1)その後の反響をフォローする試みに次いだ,(2)電子書籍に再編集する試みともいえましょう。

◎コメンテータ(日文研・江上氏)による当日ツイートのまとめ

http://togetter.com/li/622943


3件のコメント

  1. […] この冬は学術情報流通に関するシンポジウムに集中して出席しました(1月30日,2月8日,2月26日,2月28日,3月13日)。細かい議事は公開を控えますが、さすが都心はこうした催しに事欠かないと感心します。ここではそれと別に、幾つか気にかかったことを記します。ここで重要なのは単に「必要か」ではなく「(誰かに)必要とされているか」という問いの形です。 […]

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