ロシア・ソチでの冬季オリンピックが盛況裡に幕を閉じました。「アスリートは競技結果がすべて」――これは厳しい現実である一方,目標に向けて取り組むアスリートの成長と進化の過程に心動かされます。人間性の表現という意味ではスポーツもアート(特に舞台芸術)と接点をもち,そこで話されること・聞かれることは様々な示唆を含んでいると思い,ここで考えてみます。
かつてスポーツ選手は競技会場でしか接することのできない孤高の存在でしたが,インターネットの登場で選手はファンとの距離を縮め,自身の言葉で発信することが当たり前な時代が到来しました。個人ブログを立ち上げ,ファンとの関係性に新たな形を示した先駆けが中田英寿さんと言われています。
ではアスリートを見守る観衆・解説者の眼はどうでしょうか。解説者にとって,一般のひとの目線を大切にしつつ……とはよく言われるものの,競技にフェアな講評を下すのは容易でないように思います。とりわけ,経験者はプロとしての目線を持つ一方でかつての経験が災いすることもあるというのです。引退から4年,テレビ局でスポーツ番組制作に携わる元フィギュアスケーターの言葉は示唆的です。
でももし,選手を引退してすぐにスポーツの仕事をしていたら……私はとんでもなく失礼な記者になっていたかもしれません。まだ選手としての感覚も残っている状態で,突っ込んではいけないところも平気で聞いていたかもしれないですし,「私だってまだまだ滑れるんじゃないの? 彼らにだって負けてないかも?」なんて考えがよぎってしまったかもしれません。
そういった意味では2年半,映画のお仕事をさせてもらった経験は、一歩引いたいい目線でもう一度選手たちに接するための時間だったのかな,と思います。
〔中野友加里『トップスケーターの流儀』双葉社,2013年,20₋21ページ〕
最近ではネットベースで情報発信を行う本格的なポータルサイトが登場しているようです(こちら)。左記のサイトは人気の高いフィギュアスケートの他,いわゆるマイナースポーツの解説者や記事も名を連ねています。この特徴は興味深いことで,全国紙(マスメディア)では取り上げられにくい観点や事実が盛り込まれることが期待できます。世界の大舞台をきっかけに競技の知名度向上を目指す選手もいます。しかし,その後の啓蒙と普及には持続的な弘報活動が欠かせません。2014年は夏にブラジル・ワールドカップも重なるスポーツ年。ネット時代の新たなスポーツジャーナリズムの展開を見守りたいところです。
●補遺:為末大学について
為末 大(公式facebookページ)
掲題のテーマで外せないキーパーソンを紹介しなければなりません。「為末大学」を開校し,〈スポーツと社会〉の界面でアスリートのキャリア形成に取り組む元陸上競技選手。自身の競技経験と浩瀚な読書に基づく「朝のつぶやき」は,時にあざとさを孕みつつも,至言です。今回のオリンピックについても『日刊スポーツ』に寄稿されています(為末大学 オリンピックを考える)。
以下私見ですが…アスリート引退後の人生は一般に「セカンドキャリア」と言われるのですが「セカンド」という言い方はあまり,好きではありません。第一線の競技者だけで競技の裾野は広がりませんし,コーチや指導者など,スポーツの楽しさを広める活動もまた,競技と同様に重要でありファースト,セカンドといった序列はないと思うからです。