郷にいては郷に従え――日本近代化の牽引力・本郷で東京大学新図書館構想を巡る講演会に参加してきました。
2014年7月4日(金)18時半~ 於・東京大学附属図書館
演題:未来をつくる大学図書館
講師:菅谷明子氏(在米ジャーナリスト,ハーバード大学ニーマン財団理事)
司会:古島 唯氏(東京大学附属図書館・新図書館計画推進室)
本講演は多数のツイッター実況中継がありました(#未来をつくる新図書館)。概要は手際よくまとまったtweetまとめ(togetter)を参照→リンクいただくとして[注],ここでは筆者が印象深く聴いたポイントをいくつか掘り下げてみます。
[注]掘り下げたところtwitter実況中継で実績の多い編輯プロダクションの方とか(のっとわーくす)。
〔1〕読書文化の日米差違
cf. たとえば「Boston Book Discussion」と検索してみると、ボストン市内にある多くのBook Clubの情報にアクセスできるようです。こうした市民レベルの読書コミュニティの環境が成立している背景があるのですね。 http://t.co/6BjHbgS7bq Koji Inui (@resigner)
専門家の専門書研究会でなく,New York Times の記事でも紹介されているように,Book Clubが多数形成され,本を軸に互いに意見を交わし合う文化が。市民レベルで育まれている。〈異なるものとの対話として本を読む〉という討議的側面は「民主主義」の本質とも関わっていそうです。こうした重層的な読者コミュニティが,電子化の著しい英文書籍の世界で冊子体の根強い購買を支えています。
〔2〕米レファレンス・サービスの充実ぶり
【#未来をつくる新図書館】菅谷「アメリカの大学図書館の今:Scan and Delivery(本の1割りまでスキャンし、メール送付するサービス)」 http://t.co/FdnM4vrcD7 Koji Inui (@resigner)
オープンコースウェアと言い,アメリカのレファレンス・サービス(図書館の利用者向けサービス)の充実ぶりはよく特筆されます。その根底には,
・利用者自らが主体的に活用して対価を得る(あるいは対価以上の効用を引き出す)のが英米的な「公共」の含意である,
・サービスの供給は対価(税金であるとか,授業料(tuition)であるとか)を払う者に対する当然の権利である,
という,経済合理性を最大限に捉えた思想に根差していそうです。
〔3〕社会にひらかれた大学図書館へ
大学図書館、大学に閉じているのではなく、オープンにし、他からの異分子の出入りを許可し、同質化を防ぎ、イノベーションを起こす #未来をつくる新図書館 Takeshi Sase (@Stakesh)
筆者は大学図書館が大学に帰属している,つまりmembershipの限定性がオープンさを損なう負の要因のではないか,とひそかに懸念していました。これについても菅谷氏は,本講演の裏テーマであった「大学図書館を公共図書館化する」という観点から「毎日一定数の人口が同じように通う先があることは稀少かつ重要」と前向きに捉えます。
菅谷さんのお話は一種の問いかけであり,その実践(回答)は,まさに5年後に完全開館する新図書館の姿いかんにかかってくるでしょう。以下に新図書館ウェブサイトをご紹介しつつその完成を心待ちにしたいと思います。
◎東京大学本郷新図書館ウェブサイト
◎東京大学附属図書館アーカイブ(2020年7月補記)
その後,菅谷さんの講演録は『東京大学新聞Online』にOG記事として掲載された模様です。
「在米ジャーナリスト菅谷明子氏が語る,大学図書館の意義とは?」
【未来をつくる大学図書館―東京大学からの報告】
http://www.utnp.org/obog/sugaya.html [2014年7月29日アクセス]