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哲学への視座 (1) 『正義とは何か』を読む

歳を重ねると,しばしば人は正義を忘れがちです。言い方を変えれば,自分の考えや行動こそ正義だ,と思い込み,異なる見解を知らない――あるいは知っても受け入れない――ために,はじめの一歩を変えることなく付き従ってしまいがちです。

近年の哲学ブームの火点け「ハーバード白熱教室」で名を馳せた,マイケル・サンデルの講義冒頭は「暴走する路面電車の問題(トロッコ問題)」から始まります。

この例を引きつつ,神島裕子さん(立命館大学教授)は次のように指摘します。

これらの問いに対して,…消極的な「選択」をする人が多いようです。しかしこの消極性は,〈正義とは何であるか〉という問いへの関心が薄いことから生じているのではありません。そうではなく,考えること,自分の考えを述べること,他者の考えを聞くこと,そして議論を重ねることの機会が少なかったことから生じているのです。

神島裕子(2018)『正義とは何か』中央公論新社,p.261

神島さんの『正義とは何か』では,リベラリズム(第1章),リバタリアニズム(第2章),コミュニタリアニズム(第3章),フェミニズム(第4章),コスモポリタニズム(第5章),ナショナリズム(第6章)という六つの視点を順に紹介し考えていきます。語り調で書かれた文体は平易に読めますが,思潮の源流と展開を代表的な哲学者に沿って整理していく叙述は的確な見通しを与えてくれます。

他方で本書は一見,相反する価値観を含んで提示しています。例えば,個々人の自由(リベラリズム)と集団の共通善(コミュニタリアニズム),あるいは「国民」の重視(ナショナリズム)と国境を越えた世界市民の可能性(コスモポリタニズム)。現実社会でも,これほど極端ではないにせよ,お互いの正義をぶつけ合うだけでは解決の付かない事態に直面します。複雑性が増し,多様性が顕在化する今,公正さ(fairness)を求めて思考と議論を重ねることの大切さが深まっています。そうした社会状況にあって本書は必読と言えましょう。

神島裕子著『正義とは何か――現代政治哲学の6つの視点』中央公論新社,2018年 新書判・並製,ISBN978-4-12-102505-0,本体880円+税


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