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アマルティア・セン再訪

社会科学者アマルティア・センの名を知ったのは、ユニークな入試問題で知られる某私大の大学入試過去問を解いていたときのこと。高校生の当時はインド系の固有名に馴染みがなく「変わった名前だな」ぐらいにしか思いませんでした。

大学入学後もヨーロッパに関心が向いており、大学院を修了するときも、関心は格差や失業といった社会政策に向きつつも、センを援用することはありませんでした。しかし在学中、センの理論的伴走者であった故・鈴村興太郎氏の倫理学特殊講義に接したのを機に、その奥行きには無意識に惹き込まれていました(その交流の詳細はミネルヴァ書房刊の自伝に)。

センの「ケイパビリティ」概念は、財・サービスに偏重した既存の厚生概念に異を唱え、個人の「なし得ること」を軸に据えました。人間の可能性へと視野を開いた功績は大きいでしょう。その認識論的インパクトは大きく、現代の開発理論全般や国際政治にも影響力を及ぼしています。

ちくま学芸文庫の訳書『アマルティア・セン講義 グローバリゼーションと人間の安全保障』は、四本の講演録ですが、センの多面的かつ広い視野を知ることができます(彼の出発点であり、トリニティ・カレッジでの専攻である数学に関しては断片的に触れられる位ですが)。特にSDGsとの接点では第2講演が重要でしょう。私も先般、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」をめぐるシンポジウム報告を編むにあたり、彼の行論を締め括りに引きました。

…社会保障の仕組みや公共政策への介入仕組みなどによっても、市場経済プロセスの帰結をさらに修正することができます。こうしたことすべてによって、不公平や貧困の現状レベルを大きく変えることができるのです。

(セン=加藤訳、2017: 59)

以下の動画は国連大学のPVに登場するセン。「SDGsとは[17の目標に割り振られた]只の番号ではない(笑)」と皮肉を交えながら、SDGsウォッシュに警鐘を鳴らしています。

SDGsを語るアマルティア・セン(国連大学YouTubeチャンネルから)

センや緒方貞子といった先達の提唱を機に、日本では「人間の安全保障学会」が発足し、独自の深まりを見せています。

娘がつなぐセン教授との交流(webちくま、松本保美氏)


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