先だって当ブログでご紹介した片山晶子先生は「駒場ライターズスタジオ」を統括される英語論文教育の第一人者です。そもそも、東京大学教養学部英語部会は常に新しい英語教育の方向を示してきた一大拠点。筆者も英語使用者の一人として、また大学に資するコンテンツを編む立場として「駒場」の動きには、いつも注目してきました。
中でも2012年に刊行された Active English forScience は、IEEE やIOPなど理工系の著名学会、Swales & Feak, Turabian など定評ある学術論文マニュアルの数々、これらに辿り着くための入口を目指したテキストと言えると思います。「英語科学論文はこう書くんだ」という出口から見ると、本書に載っているコンテンツは「正にその通り」。それゆえ「ここに辿り着くまでのプロセスをどうするか」——材料をどう活かして教え育てるか、が、全てを左右すると感じました。
言い換えれば「このコンテンツを最大限活かして教えるにはどうすればよいか」。テキストの5~8章が「IMRaD style」へ忠実に沿った執筆法を示していることからも、本書の読者は主に実験実証系(定量的手法を用いる一部の社会科学も含む)の専攻学生と想定できるようです。
しかし、ALESSを社会一般のニーズにも応えるよう位置付けると、「世界の第一線で活躍する科学研究者になる」が全てではなく「英語でまとまった内容をしっかり論理的に書く」あたりが共有できる点になりそうです。一方で、日本の教育では「論文書きのプロセス」はどれぐらいフォーマルに位置付けられてきたか、が気になります。
筆者の学生時代はまだ、その種の「脱詰め込み教育」黎明期でした。「添削」という字面も醸し出す通り、総じて人手が掛かるため属人的で、教師個々のスキルや素養に頼っていたように思います。ですが最近では、ライティング教育の方法論が英語・日本語を問わず開発され(その成果たる一例はこちら)、URAという職制ができて研究支援の窓口が整い、ライティングセンターも全国の大学に開設されています。英語教育の最先端では、文章内容に指導を集中できるよう、典型的な文法的誤りを未然に抑える意味で、機械翻訳を部分的に採り入れた指導法も広がっているようです。
日本の教育も新しい方向性を見せつつあります。そのなかで、「英語で科学する(学問する)」試みが今後どう定着していくかに注目したいと思います。
駒場ライターズ・スタジオの視察記はこちらにも。