年度末が金曜日に重なり、どことなく気忙しい週末。運よく繁忙とならず時間ができ、新宿は初台で開かれたピアニスト池山洋子さんの公演に伺いました。

ピアニストの新約聖書とも称されるL. v. ベートーヴェンのピアノ・ソナタはその生涯に亘って書かれ、わけても最後の三曲を取り上げることは大きな挑戦でしょう。ご地元の三重県津市、現在の拠点である山梨県甲府市、学生時代を過ごされた東京の三都市を跨ぐ、新型コロナ禍を挟み実に4年ぶりというツアー公演。ソプラノ川口聖加さんとの共演やご活動ぶりに接し、いつか生で聴きたいと待望していました。
観客席との近さも手伝ってか、総じて弱音の美しさが際立った一夜でした。対照的に、肘を用いたデュナーミクによる豊かな表情(大袈裟なというのとは全く異なる)。前半のOp.109と110は期待通り美しく対をなす。Op.110で聞かれた僅かな烈しさは池山さんのパッションを感じて一層すばらしい。息を呑んだのはOp.111。これまでは、冒頭の減七和音の激しさ、終盤の急なジャズっぽい展開といった、一聴すると「極端」な部分が耳に残りがちでしたが、池山さんの演奏からは息の長いパッセージが最後のハ調まで続いていくさまがつまびらかに映し出されました。
YouTubeで公開中の、これも衝撃を受けた動画を一つ。ブラームスの40分に及ぶ大作・ソナタ第3番(Op.5)などは、性差を超えた「侠気」を感じます。